「チベットとわたし」 女優 木内みどりさん
********寛容と利他の心、魅力*****
3月14日の蜂起は、15年来付き合ったチベットとの距離を一変させた。
「ややこしく、難しい」と避けてきた民族問題に向き合い、
友人が募った抗議声明に初めて名を連ねた。
自ら情報を集め、支援のデモ行進にも参加した。
「ひとごとと思っていた他国の出来事を悲しみ、痛みを感じる自分がいたんです」
母親の影響で幼い頃はクリスチャン。
90年代初めまでチベットの正確な位置も詳しい歴史も知らなかった。
秘境、ノーベル平和賞。
遠く、漠としたイメージが変わったのは95年、
仕事を通じてチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世を知ってからだ。
「多くの信者に力を与えてきた法王(ダライ・ラマ)が『私は無力です』って。
そのうえ『信仰はあった方がいいけれど、何教でもいいんですよ』っておっしゃるの。
その寛容性と利他の心に魅かれました」。
チベットの魅力にはまった瞬間だった。
束縛や押しつけを嫌って高校を1年で中途退学し、
演技一本に頼って生きてきた努力家の女優が関連書籍を読み、
在日チベット人と交流を始めた。
子育てと仕事の合間を縫い、01年にチベット文化を紹介するNPOの日本支部を設立、
法王の妹の訪日もアレンジした。
06年には亡命政府があるインドのダラムサラを訪問。
今年10~11月には法王を通じて世界の平和を考えるアート展
「ミッシング・ピース」を東京・代官山のヒルサイドテラスで催す。
長年の活動では、関係者との行き違いや考えの相違に、嫌な思いをしたこともある。
でも「自分のことじゃなかったから続けてこられた。
私でも誰かの役に立つって、感じたかったんでしょうね」。
いま、五輪後のチベットが気にかかる。
3月の蜂起とそれに続く当局の取り締まりのてんまつを知りたい。
「チャーミング(魅力的)な部分だけ見てきた」という付き合い方を少し改め、
目を凝らしていきたいと考えている。
*********本日、9月9日の朝日新聞、朝刊より************
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